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第16回世界剣道選手権大会レポート

はじめに

2015年5月29、30、31日、九段下の武道館は様々な思いがぶつかり合う熱気と歓声に包まれた。3日間に渡って第16回世界剣道選手権大会が行われた。1970年に日本の武道館で第1回目の世界剣道選手権大会が開催されて以来、3年毎に開かれている剣道の世界規模の大会である。そして今年、剣道の聖地である日本の東京・日本武道館にて開催された。「日本武道館」はまさに剣道を志す者にとっては憧れの地であり、かく私もその場に立って武者震いがした。今回の大会には世界剣道大会史上最大の56ヵ国と地域から900人を超える選手および役員の参加があり、世界中の剣士が一カ所に集い、日々の鍛錬や成果を試す日がやってきた。私も今大会にタイ代表の一員として出場する事が出来た。

筑波合宿

我々タイチームもこの日の為に日々鍛錬をしてきた。近年タイには幸運にもたくさんの日本人剣道家がおり、指導陣に恵まれてきた。世界大会開催前に一足先に、監督のご好意もあり強豪選手をたくさん輩出する学生日本一にもなった筑波大学への合宿に参加した。

今回の合宿において設けられた筑波大学生との試合が、タイチームにとっては何よりも魅力的なオプションであった。1日目の試合でコテンパンにやられ、2日目には筑波大精鋭メンバーと戦い、まさに「瞬殺」されても、タイチームの笑顔は絶えなかった。彼らにとっては滅多に経験する事のない機会であり、一戦交えられた事そのものに凄い喜びを感じていた。とはいえ、試合内容も格段に良くなり、この数日間で確実に自信とモチベーションと程よい緊張感を手に入れた。

世界剣道選手権大会

世界剣道選手権大会当日、朝早くからたくさんの人が集まった。日本武道館会場内は日本の国旗が大きく掲げられ、全日本選手権とはまた違った異様な雰囲気を醸し出している。

いよいよ開会式が始まると同時に大きな太鼓の重低音が会場内に響き、会場が一気にライトアップされる。同時に聞こえる観客席と選手たちの歓声。そこに集まる選手たちは「観光客」と言わんばかりの盛り上がりよう。中には整列中に携帯で写真撮影するものも多数いた。それだけ、「日本らしい」独特で妖しい雰囲気に、皆鳥肌を立てていたに違いない。

朝9時に試合が始まる。私の最初の試合はおよそ3時間後の昼過ぎから。人数が多い分かなり待たされるが、5分間の試合中に今まで培ってきたものの全てを出し切らなければならない。試合の際はコートの横に入れるのは選手1名と監督1名。この監督1名の枠を獲得してフラッと入ってきたのが、タイランド剣道クラブ創始者の一人で現役員を務める私の父であった。ウォーミングアップでベストコンディションに持って行き、予選で私はチリとルーマニアを下し突破する事ができた。その後私は決勝ラウンドにすぐ負けてしまったが、たくさんの先生方の注目を集める事も出来、自分の剣道も出し切る事ができた。この試合後父は「これでまたお父さんの夢が叶った」と、前回の世界大会でも語った夢を嬉しそうに話す。息子としては何度も父の夢を叶える事ができて大変嬉しく思う。他のメンバーも惜しくも負けてしまったが、同じく決勝ラウンドまで進んだものもおり、タイの剣道のレベルも総合的に上がってきている事を実感させられるものだった。男子団体戦はオランダに破れるも、女子は決勝ラウンドまで進み、シンガポールにわずか1点差で敗退なるも、ベスト16まで進むという快挙も成し遂げ、選手を含めタイチームを応援する為に足を運んできてくださった方々にも興奮と感動を与えてくれた。そして満員の武道館にて各国がしのぎを削る中、男子女子団体戦、個人戦共に、圧倒的な実力を見せつけた日本の優勝が決まった。

大会後

大会が終わってしまえば竹刀を交えたものはみな剣友になり、3年振りの再会をお互いに祝い合う者も。やはり日本人選手や監督は有名で人気もあり、強さもあって見栄えも倍増。憧れの選手たちと写真撮影を求める輩もおり、監督陣の一員である父が同席している中で、自分としては正直なところ皆に武道の精神を尊重してもう少し厳粛でいてほしかった。Facebook等での選手同士の交流も盛んになり、また3年後の世界大会での再会を心から待ち望み、各自また修練に励む。

最後に

私にとって今大会は2回目の出場であり、目標としていた結果に達する事はできなかったが、なぜ剣道をしているのか、なぜ続けてきたのか、何の為にそして誰の為に剣道を続けてきたのか迷いのある時期もあったが、第1回世界剣道選手権大会の場所に戻ってきたという事で「初心」に返り、この期間を通してそれらの問いに対する自分の中での答えが見つかった気がした。それは単なる自己の心身の鍛錬ではなく、自分の為であり、使命でもあり、周りの期待であり、そして何よりも「楽しい」と心から思えたシンプルなものであった。ここまで指導してくれた先生方、チームメイト、支えてくれた友人、そして現タイランド剣道クラブの役員でクルンテープ剣友会会長である父に、この場をお借りして心より感謝申し上げたい。

来年はタイのバンコクにて、第11回ASEAN剣道大会が開催される。ASEANでは前の第10回大会で個人の優勝も果たしており、過去にも団体優勝等輝かしい実績を持っている。しかしながら年々周辺国もかなり実力を身に付けてきており、開催国としてはサバイサバイのマイペンライ精神はしばらくお預けして頂きお互いに鞭打ってでも厳しい練習に励む必要がある。今後ともタイの剣道界を盛り上げるべく、皆様の応援を頂けると大変嬉しい。

現在我々は毎週日曜日にバンコク日本人学校の体育館にて練習を行っており、初心者も経験者も年齢に関係なく共に練習に励んでいる。今から始めようと思っている方、しばらくブランクの空いた方、どなたでも我々はいつでも大歓迎である。志井正行は、今後とも日本とタイの、そして世界をも繋ぐ人材になり、精進して参る。この度は私の記事を掲載頂き、心より感謝申し上げる。

初日男子個人戦。志井選手はルーマニアとチリの選手をいずれも二本勝ちで破り予選を突破。

満員の日本武道館。この場所で剣道をすることは世界中の剣道家の夢です。

タイチーム集合写真。選手一同この日のために稽古を重ねてきましたが、この日がゴールではありません。来年のアセアン大会、そして三年後の韓国での世界大会に向けて、終わることのない修行の旅は続きます。

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