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第16回世界剣道選手権大会参加レポート

 本年5月29日、30日、31日の3日間東京の日本武道館において第16回世界剣道選手権大会が開催されました。この大会は世界56か国と地域から900名を超える選手と役員を迎えて開催されました。この大会は3年ごとに世界各国の持ち回りで行われ、3年前はイタリアのノヴァラで開催され、3年後には韓国で行われる予定です。

 さて、この大会にタイからも17名の選手団が派遣されましたが、その選手団にク剣から監督・コーチとして今岡元道、牟禮俊宏、役員として志井稔、選手として志井正行が参加することとなりました。以下はそのレポートです。

 参加選手の体調を整え世界大会に臨むという目的もあって日頃懇意にしていただいている筑波大学鍋山先生のご厚意に甘えて筑波大学での剣道合宿に参加するため5月24日早朝われわれ本隊、今岡、ワンチャイ、志井ほか計7名はスワナプム空港を出発。チアップら女子選手5名は23日の夜ドンムアンからすでに出発済みです。そのチアップ達を24日の朝成田で迎え筑波大合宿場へ案内してくれたのは中根さん、今井さん。そして、われわれ本隊は24日の午後4時前に予定通り成田到着。しかし一部メンバーがイミグレ通過に時間をとられ、結局空港の外へ出たのはもう6時近く、そのわれわれを、マイクロバスと自家用車で迎えてくれたのはク剣OBの和田さんご夫妻でした。あの時、お二人がご協力を申し出てくれていなかったら、いまだにわれわれは筑波山の山中をさまよっていたかもしれません。実際のところ合宿場にたどりつくのも大変でした。和田さん、本当にありがとうございました。結局タイからこの合宿に参加する総勢16名に日本から駆けつけてくれたク剣OBと関係者10数名が、筑波大で同じく世界大会前に筑波大で合宿していた米国、中国、オランダ、香港、フィンランドチームの待ち受ける合同歓迎夕食会で一堂に会したのは、午後8時過ぎのことでした。それでも皆さん意気軒昂その日は旅の疲れもなんのその夜の更けるのも忘れて久しぶりの再会の宴が延々と続きました。

 25日、26日の合宿はク剣OBで元副会長の池田さんの大活躍で稽古場所と時間を確保いただいて、午前中はプライベートな時間と道場でタイチームを中心にク剣OBと関係者先生方の指導による稽古を、午後からは主道場へ移って筑波大生主導による稽古、続いてオランダ、フィンランド、香港、タイの選手による試合稽古、続いて夕方からは合同稽古を行い、2日間みっちりと大変充実した稽古をすることができました。ただ、オランダチームは予選ラウンドの男子団体戦で直接対決が決まっていたので、タイチームとの試合稽古は先方から断ってきました。オランダ、フィンランドなどヨーロッパ勢は総じて体格が大きく、彼らの間に立つと日本では大きいとされる1メートル80センチ前後の選手さえ小さく感じるほどです。そのオランダチームには2メートルを超す上段の選手がいるのですが、その彼を筆頭にみんななかなか手ごわい相手のようです。タイの選手たちは当初床が良く滑るので道場そのものになかなか慣れなかったようですが、筑波大剣道部の生徒たちが、手際よくタイの選手一人一人を案内して稽古を組んでくれていましたので、時間のロスもなく、全員楽しく稽古ができているようでした。試合稽古のほうも筑波大生との試合は別(瞬殺多し)として男女ともに程よい強さのフィンランド、香港を相手に徐々に体を慣らしていきました。ただ何人かの選手が足をくじいたり負傷したりしましたが、それでも誰も休もうとはせず、本番を控えてケガや体調不良を心配なので敢えてそれを聞くと「こんな恵まれた環境で稽古をできる機会はそう多くは望めないから」というもの。確かに、筑波大の皆さんの剣道を見ているとスピードも打ちの強さも、すべてにおいて桁違いのレベルでしたので、世界大会を前にして、タイの選手たちがこの機会に体を慣らして少しでも自分たちのレベルを上げておきたいと思うのは、ごく自然のことでしょう。さて、その思い通り、それぞれの選手が調子を上げて本番に臨めたようです。結果論になりますが、この合宿を経ず世界大会に臨むことになっていたらと考えると、今でも冷や汗が出ます。それぐらい素晴らしい合宿でした。

 また、個人的には25日、26日の夕方からの合同稽古で、次から次に筑波大の生徒さんたちが並んでくれて沢山の稽古をいただきました。それそれの皆さんが、早く、真っ直ぐ、勢いよく打って来てくれて、ささささーっと突き抜けて行き、また打ってくる。しばらくは目が回るばかりでしたが、徐々にそのスピードに目と体が慣れてきて、ほんの少しだけですが、何とか稽古を続けることができました。この2日間の筑波大生との稽古で、この年になって高段者の端に加わり、その境遇に甘んじ、その上にあぐらをかき始めていた自分にハッと気がつき「また初心に戻って剣道を始めよう!」と心に誓いました。

 27日の朝は特別にアレンジしてもらった貸切バスで、フィンランド、香港、タイ3か国の選手たちと一緒に代々木のオリンピックセンターへ移動です。荷物が多すぎてバスに入り切らないのでマイクロバスにぎゅうぎゅうに積み込んで、それでも足らず助手席もいっぱい。そのマイクロバスを、なんと鍋山先生が自ら運転して代々木のオリンピックセンターまで運んでくれました。鍋山先生、最後までありがとうございました。

 28日は午後2時から武道館近くのグランドパレスホテルにてマネージャー会議です。タイからはワンチャイと志井が出席しました。そして、会場にはなんとあの宮崎正裕氏が日本チームののマネージャーとして出席しています。いよいよ明日から第16回世界剣道選手権大会が始まるのだなと実感した次第です。会議の内容は、主に大会進行のための諸注意事項の確認でしたが、誰かの質問から話題が前回イタリア大会で某国選手の態度が悪かったことになり、今大会では同様の態度をとる選手がいた場合、FIK剣道規則にのっとり「その場で負けと判定する。」との断固とした今大会を運営するFIK役員からの回答を得ました。なにやら先に不安を感じる会議ではありました。

(志井稔)

*女子団体戦においては、個人戦に出場した選手も、団体戦のみにエントリーしている選手も、ともに今までの弱点を克服して、素晴らしい戦いぶりを見せてくれました。

ややもすれば、つばぜり合いから下がりがちなところを我慢して、前へ前へと攻めてくれました。一次リーグを突破できるかどうかが課題でありましたが、団体戦の戦いの中で自分の役割を果たして決勝リーグへと駒を進めてくれました。

決勝リーグでは、同じASIAグループのシンガポールとの戦いでありましたが、あと一歩のところで及びませんでした。

今回、初めてタイ国の女子チームが世界剣道にチャレンジした戦いでありましたが、出場した選手のそれぞれが、タイ国のレベルを体で感じてくれたものと思います。次回の韓国での17回大会に向けての課題も見えて来ました。3年後の韓国大会には、今回の選手も何人かは経験者として出場してくれるでしょうし新しい芽もでてくると思います。

*男子団体戦においては、最初の相手が強豪オランダできちんとした立ち上がりの前に負けてしまった様な感じもします。この相手との試合を見た限りでは、実際は3敗2分けでありますが、個々の戦いぶりを見る限り完敗という事にはなっていないと思います。戦い方によっては勝てる可能性は充分にあると考えます。今後、世界を相手に戦うということの難しさを選手全員が感じてくれたことと思います。

第2戦目のインドネシア戦では、同じアジアのチームということもあってか伸び伸びとした試合をやってくれました。その中でも、次に向けた課題も多く見えて来ました。試合場をいかに広く使うか、時間を考えながら戦っているか、個々においては引き技時のスピードが充分であるか、引いた方向は充分な広さがあったか?等々。それぞれが負けたときの状況を覚えておいて、次に同じ状況に接したときに同じ負け方をしないように出来るか?等々。タイチームはまだまだ伸びしろがあります。今後が楽しみなタイ国剣道界です。世界の剣道人が誰もが出てみたい日本武道館においての試合に出場できた事を生涯の誇りにしてほしいと思います。

各個人に対する感想

(男子)

正行 初めての晴れ舞台の武道館においても臆することなく思い切った伸びのある技をいくつか出していたことが印象深い。環境次第でいくらでも伸びる可能性あり。

クリス 優しい性格で弱気にもなりそうなところを、思い切った技で予選突破してくれたところに意義があると考える。

ティー 試合巧者であるが、今回は線が取れていないため巧い試合運びができなかった。前向きに稽古をすることが望まれる。

ブン 稽古での怪我もあったため実力が出せなかった部分もあるが、上段からの技の幅を広げることが上達の近道と考える。

オート 今回は良い部分を出すことができなかったように感じる。日本での稽古を通じて上達の可能性は無限。

ガイド オランダの上段との戦いは素晴らしかった。良い小手もいくつかあった。2戦目は手数の多い相手であったが、うまく小手を拾った。もう少し遠い間からの技がほしいところ。

テー 常に前へでる試合を見せてくれた。試合で実力をだすタイプ。今後も期待。

ノート 2試合ともよく前へ出ており、自信を持って試合に臨んでいることがうかがえる。非常に良い試合運びであった。

(女子)

ウー 持ち前の元気さで全体を引っ張った。先鋒の役目を充分果たしてくれた。

フイ 1回戦での負けをものともせず、2回戦での2本勝ちは立派。団体戦では、つばぜり合いから下がる悪い癖がほとんど出ず、素晴らしかった。

ニック 彼女らしい強気の攻めで2試合も勝利をおさめた。引くことも少なく良い試合内容であった。

プラン 試合巧者の実力を充分発揮してくれた。戦いぶりが良かった。

ウサー 女子チームの中では、一番経験が浅いはずであるが、個人戦において素晴らしいファイトを見せてくれた。よく我慢して前へ出て1勝してくれた。

チアップ 大将らしい堂々とした戦いぶりを見せてくれた。タイ国初の女性5段は快挙。

(今岡元道)

各国の剣道レベルは格段に上がっており、剣道の聖地、日本武道館を目標に、3年間の錬磨が発揮された結果です。 タイランドチームの選手も数段レベルアップしていましたが、各国の成長までには、あと一歩のところでした。 剣道のレベルとして、日本、韓国、アメリカは別格ですが、ブラジルとハンガリーは地力があり、前回の世界大会の主催国であるイタリアも頭角を表していました。ヨーロッパ勢は身長も高く、腕力もあり、中々、勝てない相手です。 アジア勢では、中国と台湾が試合の駆け引きが旨く、力量を発揮していました。来年はアセアン大会がバンコクで開催される為、タイランドチームの更なる剣道レベルの向上が期待出来ます。

なお、世界大会を契機に日本に本帰国となり、私としてはこの大会が最後の思い出になりました。まだまだ、心残りでやり残したことが沢山ありますが、タイ国の剣道と一緒に過ごせた7年と5ヵ月間を感謝しています。

(牟禮俊宏)

まとめ

クルンテープ剣友会会長 志井稔

 剣道世界一を競う第16回世界剣道選手権大会に参加し世界の選手の素晴らしい試合を目の前で見ることができ、その大変貴重な体験に感動し感謝しております。また、自分が剣道を始めるきっかけとなった長男の誕生から、その本人が世界大会に出場することになり、それも剣道の聖地日本武道館で、たまたま、個人戦に出場するタイの4名の選手に監督2名と役員2名で手分けして監督役として長男についた、ただそれだけですが、降ってわいた幸運としか言いようのない、監督役として選手の息子とともに試合場に入り、その試合を目の前で見るという、まあこの上ない幸せな時を得ることができました。今更ながら剣道をやっていてよかったと思いました。

 この度タイの剣道チームが世界剣道大会に出場するに当たり、クルンテープ剣友会会員とOB、多くの関係者の皆様の温かいご支援とご協力をいただきましたことに心よりお礼申し上げます。5月24日からの筑波大合宿でご一緒させていただいた皆様とは連日連夜の稽古と残心会で楽しいひと時を過ごさせていただきましたが、オリンピックセンターへ移動し大会が始まりましてからは、それぞれの役割と大会会場の警備の関係上、せっかく武道館までお越しいただいたのにお会いできなかったり、当方の連絡の不行き届きもあり、また、ご挨拶もなにもほんのちょっとすれ違うだけで終わってしまったりと、大変失礼いたしました。申し訳ございませんでした。ただ、皆様の温かいお気持ちは充分にしっかりと受け止めさせていただきました。これ以降もクルンテープ剣友会会員とOBそして関係者の皆様、是非タイの剣道とともに、ますますご健康でご活躍の上、みんなで一緒に発展してまいりましょう。続けてご声援ご協力よろしくお願いいたします。

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